敗血症性ショックの際に、主に循環動態の維持、改善を目的として、2020年現在は以下の3種類の薬剤が投与されることが多いと思います。
ノルアドレナリン 必要量 mcg/min
ハイドロコルチゾン 200 mg/day
バソプレシン 〜0.03 U/min
これらの薬剤の投与のタイミングや投与目的については成書、ガイドラインを参照してもらうこととして、ベッドサイドでよく質問されるのは「これらの薬剤をどのように減量していくか」という点です。
結論から言いますと、減量の順序やスピードについて科学的に確立されているものはなく、施設ごとに独自のルールがあっていい、というのが私の見解です。
私の勤務する施設では、それぞれを以下のような組成、流速で投与しています。
ノルアドレナリン 必要量 mL/h(末梢 3mg/100mL D5W※, 中枢 6 mg/100 mL D5W)
ハイドロコルチゾン 4 mL/h(200mg/100mL NS)
バソプレシン 9 mL/h(20mg/100mL NS)
※D5W:dextrose 5% in water = 5%ブドウ糖溶液
まず、それぞれの薬剤の最適な投与タイミングや投与目的自体が積極的な研究対象になっているのが現状です。ステロイドは人工呼吸器装着期間を短縮するのではないか、バソプレシンが腎機能維持に貢献するのではないか、といった仮説が立てら、検証されていると思います。そんな中で、「ではその薬をどのように減らしていくのが最適か?」などというのは、その薬剤投与の明確な有効性が議論されている段階においてはまだ科学的検証の対象とはなりません。
ではどのように減量しても良いかというと、そうではありません。私に言わせれば、減量の方法は、投与のタイミングや目的を明確にすることと同じくらい重要な意味を持っています。
いま、ある施設Aでは、上記3剤の減薬順序や方法は各医師に委ねられているとします。あるとき研修医が出勤すると、それぞれが以下のような流速で投与されていたとします。
ノルアドレナリン 20 mL/h(20 mcg/min)
ハイドロコルチゾン 2 mL/h(100 mg/day)
バソプレシン 5 mL/h(0.017 U/min)
ハイドロコルチゾンやバソプレシンの投与速度から、おそらく各薬剤を減量している段階にあるということは分かります。では、どのような経緯でウィーニングを進め、現在の状態に落ち着いているのかと言われるとよく分かりません。研修医も、次にどの薬剤を減量したら良いのか、減量した医師に確認しないとはっきりしません。
別の施設Bでは、バソプレシンはノルアドレナリンが終了してから3 mL/hずつ減量し、バソプレシン、ノルアドレナリンの両方が終了してからハイドロコルチゾンを半量ずつ減量する、ということをルール化していたとします。あるとき研修医が出勤すると、それぞれが以下のような流速で投与されていました。
ハイドロコルチゾン 4 mL/h(200 mg/day)
バソプレシン 6 mL/h(0.02 U/min)
研修医は即座に「ノルアドレナリンが終了し、バソプレシンを減量し始めた段階だ」ということを認知することができます。さらに「次は何時間くらい経ったらバソプレシンを3 mL/hに減量しようか」という具体的な治療戦略上の問いを立てることもできます。さらに、
ノルアドレナリン 10 mL/h(10 mcg/min)
ハイドロコルチゾン 2 mL/h(100 mg/day)
バソプレシン 3 mL/h(0.01 U/min)
という状況になっていた場合、施設Bであれば、研修医は「ステロイド投与で何か問題が生じたから早めに減量しているのだろうか」「バソプレシンを先に減量しているのには理由があるはずだ」といった施設Aでは絶対に抱くことのできない疑問を持つことができ、ディスカッションポイントが明確になります。
減量する際のルールが決まっていることは、看護師にもメリットがあります。「MAP目標に応じてノルアドレナリンから減量でいいですか?」「次はバソプレシンをOFFにするはずだからこのバッグで投与を終了して良いか聞いてみよう」といった一歩進んだ管理や医師とのコミュニケーションが可能になります。
このように、敗血症性ショックにおける各薬剤の減量方法というのは、科学的な根拠がなくとも「同一施設内で統一されている」ことにより多くのメリットを生みます。ですので、正しい問いの立て方は「これらの薬剤をどのように減量していくか」ではなく「この施設ではどのような順序で各薬剤を減量しているのだろうか」なのです。
参考文献
Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017 Mar;45(3):486-552. (PMID: 28098591)