説明をわかりやすくするため、②の間接法×電極法から解説します。
②間接法×電極法
間接法では、血液をスピッツに入れた後、凝固して沈殿した血球成分+凝固因子を除いた「上澄み=血清」を測定器にかけます。このとき、生化学検査で調べたい項目は、当然Naイオン濃度だけではありませんので、Naイオン濃度の測定に用いられるのは上記血清のうちごく一部だけです。この少量サンプルに電極を差し込んで測定したいのですが、その際、このサンプルは水により希釈されます。なぜ希釈が必要なのかと言うと、サンプルの必要体積の問題のほかに、希釈することでNaイオン濃度がより正確に測れるためだと考えられます。
なぜ、希釈によりNaイオン濃度がより正確に測れるのか?
実は、電極により測定されるのは、正確には水分画中に溶存している「Naイオン濃度=concentration」ではなく、「実際に帯電物質として振る舞っているNaイオンの濃度=活量(activity)」だということを知っておく必要があります。
この際、全てのNaイオンがイオンとして振る舞う(電極に濃度通りの頻度で結合する)ためには、溶存している種々のイオン同士の干渉がゼロである必要がありますが、現実の溶液中ではそのようなことは不可能です。しかし、十分に希釈された溶液中では、このイオン同士の相互作用が限りなく小さいと考えることができ、全てのNaイオンがイオンとして振る舞っている、すなわち、
concentration ≒ activity
であると考えることが出来ます。
つまり、間接法により測定されたNaイオンのactivityは、Naイオン濃度の近似値と考えることができるのです。したがって、希釈することでNaイオン濃度をより正確に測定することが可能になります。ちなみに、希釈液中にはタンパクや脂質も存在していますが、その体積は無視できるほどに小さいと考えます。
①直接法×電極法(血液ガス分析装置の測定方法)
希釈を用いない直接法では、狭いスペースに拡散するイオン同士の干渉により、全てのNaイオンがイオンとして振る舞うことができず、また、溶存しているタンパク、主としてアルブミンもNaイオンに干渉するため、Naイオンのactivityを低下させます。すなわち、イオンやタンパクの濃度が高いサンプルでは、理想溶液(ここではconcentration≒activityである溶液の意)と比べて、
concentration > activity
という状態になります。したがって、直接法で測定されたNaイオンの濃度(activity)は、実際の濃度(concentration)よりも低いものとなります。しかしそれでは現実を反映していないので、機械による補正、すなわちactivityからconcentrationへの自動補正が行われています。
どのように補正されるのかというと、健常人でどの程度の干渉が生じるかに基づいて補正されます。つまり、そのサンプルで測定されたactivityが、正常な分画(タンパク:脂質:水)体積を持っている血清で測定された値であると仮定して、その正常な分画をもつサンプルを間接法で濃度滴定した際に得られるNaイオン濃度に変換しているのです。そしてこの仮定された健常人でのタンパク+脂質分画は、全体の血清に対して7%です。

下線部分が示すように、正常な分画をもつ血清サンプルの場合、直接法の測定結果の信頼性は高くなりますが、この分画が極端に正常から逸脱しているような例では測定値に誤差が生じます。上述の通り、希釈していないサンプルでのNaイオンのactivityは他のイオンやアルブミンからの干渉を受けてconcentrationよりも小さくなりますので、同じactivityの値だったとしても、本当にNaイオン濃度が低いのか、濃度そのものはさほど低くないのにタンパク・脂質分画が異常に大きいために干渉が大きくなってactivityが低くなっているのか、機械は区別ができません。ここに、直接法による測定の限界があります。ただし最近では、このタンパク分画の影響をも加味したキャリブレーションの方法が考案されているようなので、ひょっとするとこの誤差は考えなくて良いものになっているかもしれません。
ここまで聞くと、真のNaイオン濃度を知りたいのであれば直接法(血液ガス分析器)は不正確で、間接法(中央検査室)の方が正確なんじゃないか?と思われるかもしれません。では次に、Naイオン濃度=concentrationをより正確に評価できるとされる間接法の欠点について説明します。
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