初回投与量

Q. 救急外来で、eGFR 20 mL/minの患者へのピペラシリン・タゾバクタムの初回投与量として妥当なものを選べ

1)2.25 g

2)3.375 g

3)4.5 g 


抗菌薬の投与量というと、多くの人が思い浮かべるのは「維持投与量」です。◯グラム◯時間毎、と言ったとき、◯グラムというのは血中濃度をメンテナンスするための投与量、すなわち維持投与量になります。

排泄に時間を要する薬剤では、同じ投与量で投与を続けたとき、一定の血中濃度すなわち定常状態に到達するまでには複数回の投与を要します。その場合、初回に比較的高用量を投与して早期に目標血中濃度に近づけます。VTに対してアミオダロンを投与する際に「ローディング」として初回にまとまった量を投与した後に維持投与を開始するのが一例です。初回に十分な量を投与することで薬剤を体内に分布させ、達成した高い血中濃度を「維持」するために維持投与を行うという考え方です。

各種薬剤のローディング量

・アミオダロン/心室粗動:150 mg1)

・フェニトイン/てんかん重積:20 mg/kg2)

・デキサメサゾン/気管支喘息:0.6 mg/kg(上限15-18 mg)3)

・バンコマイシン/感染症:25-30 mg/kg4)

抗菌薬の場合、初回投与量は、各抗菌薬の添付文書や市販の抗菌薬処方ガイドなどに腎機能に基づいて記された投与量よりも多くなります。腎機能が正常だろうが廃絶していようが、体中に薬を分布させるために必要な投与量は変わらないからです。(eGFRに基づく維持投与量にも問題がありますが、こちらは別記事で紹介しています)

ところが、このことは各種処方ガイドや各感染症のガイドラインにはほとんど詳述されていません。多くの医師が、腎機能が障害されている場合、処方ガイドなどにしたがって初回から維持投与量での治療を開始し、結果的に治療初期に有効な血中濃度に到達しない時間を作り出している可能性があります。

感染症の治療を開始するにあたって、抗菌薬の初回投与量を規定するのが薬剤の分布容積(Volume of distribution, VD)と呼ばれるものです。VDは、薬剤投与量を血漿薬剤濃度で除した値で表され、薬剤が血漿中と同じ濃度で各組織に分布したと仮定するとき、その薬剤が分布している仮想的な容積です。とくに重症患者では、血管透過性の亢進、蘇生に伴う大量輸液/輸血により、VDが飛躍的に拡大しているケースがあり、これが一般的にThird spacingと呼ばれる病態です。このような患者では、水溶性抗菌薬の血中濃度が目標を下回りやすいことが知られています1)。具体的には、グリコペプチド系やβラクタム系、アミノグリコシド系のような水溶性の抗菌薬でVDの拡大が問題となります。重症患者への「初回の」抗菌薬投与に際しては、臓器不全による排泄遅延が懸念されたとしても、分布容積の拡大を見越して十分な量を投与する必要があります。特に重症患者で問題となる分布容積ですが、少なくとも初回投与量を減量しない、という考え方は、救急診療や一般の感染症診療にも通じるものがあります。

私が初期研修を行った病院の救急外来では、尿路感染症などにセフトリアキソンを初回投与する際に、1g投与する人と2g投与する人がいました。当時はあまり意識せずにその場の上級医の指示通りに投与していた記憶がありますが、今は基本的に2gを初回投与量としています。

初回投与量が違ったくらいでなにか変わるのか?と言われると、明確にアウトカムが違ってくることは示されていませんので、このあたりは半分机上論になります。しかし、敗血症診療で可及的早期の抗菌薬投与が推奨されていることを考えると、その投与量は十分であることに越したことはないでしょう。

抗菌薬投与の適切な血中濃度の維持のためには、「初回投与量」と「維持投与量」を分けて考えましょう。


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参考文献

1) ACLS Tachycardia Algorithm for Managing Stable Tachycardia
https://www.acls.net/acls-tachycardia-algorithm-stable.htm (Last accessed on Jul 19, 2020)
Last updated: June 4, 2020

2) Emerg Med Clin North Am. 2016 Nov;34(4):759-776.
Status Epilepticus: What’s New?
PMID: 27741987

3) Pediatrics. 2014 Mar;133(3):493-9. doi: 10.1542/peds.2013-2273.
Dexamethasone for acute asthma exacerbations in children: a meta-analysis
PMID: 24515516

4) Curr Clin Pharmacol. 2013 Feb 1;8(1):5-12.
Plasma Pharmacokinetics of Antimicrobial Agents in Critically Ill Patients.
PMID: 22946868

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