ガス分析と低Na血症①

Q. るいそう患者の中央検査室のNa値が150、血液ガス分析装置でのNa値が140と乖離していた。とるべき対応はどれか

1)中央検査室の値を信頼して食間水を増やす

2)中央検査室の値を信頼して糖液を投与する 

3)血液ガス分析装置の値を信頼して特に補正は行わない

4)中央検査室に再検を依頼する

(解答は文末にあります)


ICUの患者さんでは、低ナトリウム血症をよく見かけます。

「Naイオンの濃度測定値は、中央検査室(中検)の値よりも血液ガス分析装置の値のほうが正確である」

ということをICUをローテーションした方は耳にしたことがあるかもしれません。

ではなぜ、そのように言えるのでしょうか?

まず、知っておかなくてはならないのは、「真のNaイオン濃度」すなわち「我々の体が調節しようとしているNaイオン濃度」とは、実は140 mEq/Lを正常とする「血清」Naイオン濃度ではなく、血液成分中の「水コンパートメント」に分布している「水分画」Naイオン濃度だということです。この「水分画Naイオン濃度」が正常に保たれることが、我々の体が正常に機能するために必要ということです。

血液=血漿+血球

血漿=凝固因子+血清

血清=タンパク+脂質+水+そこに溶けているイオン

全血から、血球成分と、凝固因子を含むタンパクと、脂質を除いたものが、水分画になります。健常人では、タンパクと脂質を併せた分画体積は血清のおよそ7%ですので、140 mEq/Lの血清Naイオン濃度をもつ人の「水分画」Naイオン濃度は、

140 × (100/93) = 151 mEq/L

となります。これが、我々の生体にとって重要なNaイオン濃度なのです。

もうひとつ知っておくべき事柄として、Na濃度検査の結果は、血液ガスにしろ中央検査室にしろ、「血清Naイオン濃度」を報告しているということです。我々は日々、Naイオン濃度については生体にとってさして重要でない数字を見せられているということになります。

Naイオン濃度の測定方法には、大きく分けて、次のの3種類があります。

①直接法による電極法:direct potentiometry

②間接法による電極法:indirect potentiometry

③間接法による炎光法:indirect flame photometry

上記に見て取れるように、「直接法」と「間接法」が同じカテゴリー、「電極法」と「炎光法」が同じカテゴリーに属し、これら2✕2の組み合わせによる測定方法として、実際には上記の3種類があります。

直接法というのは、全血をサンプルとしてイオン濃度を測定する方法、間接法というのは、血液を凝固スピッツに入れることで【血球成分+凝固因子】と【血清成分】に分け、この血清成分を希釈したものをサンプルとしてイオン濃度を測定する方法を言います。「直接」測定するか、「間接」的に測定するかということです。

電極法というのは、サンプル中に電極を差し込み、発生した電位から水分画内のNaイオン濃度を測定する方法、炎光法というのは、 サンプルの吸光度を測り、その吸光度からサンプル中の特定の物質(ここではNaイオン)の濃度を測定する方法です。炎光法では「サンプル全体の体積」に対するNaイオン濃度が算出されることになりますが、電極法ではサンプル全体からタンパク成分と脂質成分を除いた「水分画の体積」に対するNaイオン濃度が測定されるという違いがあります。同じ患者さんでも、用いる測定方法が異なる場合、測定されるNaイオン濃度が大きく異なることがあります。なぜでしょうか?


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