世界観をどう壊すか

ここに書いているようなことを頭で理解したとしても、その人の中の凝り固まった世界観が急に入れ替わることはない。ナルシシストが自分の本性に気がついたとしても、彼らの中に湧いてくる怒りはやはり不快な体験であり続ける。できることと言えば、「怒り・不満」をトリガーとして自分のナルシシスティックな自己愛に気づき、それを分析し、怒りに即行動で反応しない練習を積むことくらいかもしれない。怒りや不満を覚えるたびに、今まではそれらの感情が無意識的に自分を突き動かすことを許していたのを、自分が一体どんな世界観を持っているのかを観察する道具として使うようにするのだ。世界観とはそう簡単に、随意的に壊せるものではない。自分の世界観は無意識の応答装置として機能している。自分のナルシシズムに気づいても、世界観が変わらない限り不満な体験からは逃れられない。だがナルシシズムへの理解は、不満が自分に無意識の応答行動をさせることにブレーキをかける。レジの列に割り込まれても、悪態をつく代わりに自分の世界観に目を向けることができる。患者とのコミュニケーションがざらついても、語気を強める代わりに自分がどういう期待を持っていたのかを考えるようになれる。ナルシシズムを克服した人は、世界に対する自分の反応の仕方から、自分自身の世界観が変わったことを窺い知ることになるだろう。

怒りに即行動で反応しないかわりにできることは、怒りを嫌悪感で置換することだろう。好き嫌いという感情は、健全な心の持ち主にも備わったものだ。後述するように、嫌悪感は自分と別個の存在に対して感じられるのであれば怒りや不満を生まない。ナルシシストは自他の区別が曖昧なので、嫌悪する対象が自分の一部、自分と全く同じ考え方を持つ人間のように感じられ、自分の世界観に一致しない行動や考えを修正、改変せずにはいられない。自他の区別をつけていくことが、怒りや不満の種を減らしていくためには必要であろう。